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2021年12月14日 (火)

アフリカ/南アフリカへ

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アフリカ大陸を、エジプトから最南端の南アフリカ・ケープタウンまで、可能なかぎり不便な方法で縦走しようというポール・セローの旅は、わたしの事情でジンバブエのあたりで停滞を余儀なくされていた。
わたしの事情というのは、わたしもセローに負けないような紀行記を書いてみたくて、そのネタ探しだったんだけど、それはこのアフリカ紀行を終えないと始められないので、あまりアテにしないで待つこと。

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セローは南アフリカのヨハネスブルクに行くためにバスに乗った。
出発するとすぐに運転手のお祈りの声が聞こえてきた。
ただの交通安全の祈願だったけど、相手が馬鹿正直な宗教信奉者であればあるほど、からかってみたくなるのはわたしといっしょで、この点セローとわたしは一卵性双生児ではないかと思うくらいよく似ている。
セローはついむふふと笑ってしまった。
となりにいたアフリカ人の宣教師がそれを聞きとがめて、あなたは神を信じないのですかと話しかけてきた。
天気はいいし、道路も車も快調なんだけど、国境まで先は長いから、これはいいヒマつぶしというわけで、セローは相手に応じることにした。
無神論者とはいえ、著名な国際的作家のセローのことだから、いっかいの宣教師ごときが歯の立つ相手ではない。
逆にセローのほうから、旧約聖書の申命記や新約聖書の使徒行伝(こういう本があるらしい)など、ムズカシそうな書物を持ち出し、迷信や旧弊なしきたりの弊害についていろいろ質問をすると、わたしは簡単な質問をしたのにあなたはむずかしい質問ばかりしますねと相手は困惑してしまう。

わたしにも経験がある。
むかしわたしを口説き落とそうと、とある宗教団体の若い娘が押しかけてきたことがあった。
彼女の目的が宗教がらみでなければ、わたしもたいていのことは応じたであろうに、なにやら教祖サマが書いたといううすっぺらな冊子を持ち出して、わたしを勧誘だか折伏だかしようとした。
アノネと、わたしが迷信や伝説のたとえとして、海に剣を投じた新田義貞の故事を持ち出すと、彼女は新田なにがしって誰ですかといいだした。
宗教に狂うような人間はたいてい知識が偏向していて、自らが信じる神さまのこと以外はなにも知らないのが多いから、他の分野の質問をするとたいていボロを出す。

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宣教師をからかっていいヒマつぶしをしたセローは、ヨハネスブルクに向かう途中マシンゴという町に寄った。
ジンバブエの首都ハラレやヨハネスブルクなどに比べると、このあたりはまだ高層ビルも少なく、空が広くて、古い写真でながめるとまるで米国の中西部の町のようであり、セローもここなら住めると書いている。
この町にはジンバブエという国名の由来となった「グレート・ジンバブエ」という遺跡があるそうで、寄るかと思ったセローは、自分がからかった宣教師がここでバスを降りたのを見て、下車するのをやめてしまった。
せっかくだからわたしのブログではこの遺跡を見ていこう。

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なんでも10世紀から14世紀にわたって繁栄した王国の遺跡だそうである。
この時代は、日本では平安時代の末期から室町時代にかけてのころだから、ピラミッドのように古いものではない。
時代を考えると、アフリカに進出してきたポルトガルのような西欧国家の影響で、つまり“文明の衝突”で衰退したアフリカ人の王国だったのではないか。
ユネスコの世界遺産に登録されて、そのせいかよく整備されており、近くには遺跡の名前を冠したホテルまであるらしい。

マシンゴでバスはしばらく停まった。
べつに急ぐ必要のないセローは、バスの乗客をじっくり観察して、それがさまざまな人種の寄り集まりであることを知った。
まえに書いたけど、南アフリカやジンバブエあたりになると、白人対白人の紛争もあったくらいだから、アフリカ人以外の人種も多いのである。
インフラもほかのアフリカ諸国よりマシなようで、バスの旅もケニアやタンザニアあたりに比べると、すこぶる快適なようだった。
セローはあまりアフリカらしくないなと思い、アフリカについて一種の固定概念があったのか、不思議な惑星に迷い込んだようだと書いている。
現代のわたしたちがパリに行って、あまり黒人が多いのに面食らうのといっしょかも。

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セローはようやく南アフリカとの国境までやってきた。
ザンジバルと南アフリカの国境にはリンポポ川が流れていて、国境の検問所はこの橋のたもとにあるけど、入国、出国の手続きはあまり効率的に行われていないようで、ここではしょっちゅう車が渋滞していた。
セローの旅のあとで新しい橋ができたようだけど、渋滞の写真はまだ最近のものだから、手続きの非効率さはいまでも続いているようである。

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バスのなかで彼のとなりにアフリカ人女性が座った。
相手が宗教と無縁の女性である場合、セローがからかうことはめったにない。
彼女はヨハネスブルクよりもまだ先にあるレソト王国のマセルまで行くという。
王国なんていわれると遺跡がふさわしい古めかしい名前なので、そういう国がいまでもあるのかと調べてみた。
南アフリカという大海に浮かんだ小島のような国で、最近のグーグル・マップにもちゃんと載っており、このあいだの東京オリンピックにも出場していて、国土の大半が海抜1800メートル以上の高地にある国と紹介されていた。
となりのアフリカ人女性にいわせると雪が降ることもあるそうである。
そういわれてあらためて地球儀をながめたら、南アフリカあたりまで来ると、南緯、北緯の違いはあっても、緯度的にはすでに日本の鹿児島あたりに近い。
鹿児島はつい最近わたしが行ってきたばかりだけど、屋久島や霧島連山には雪が降るよな。

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レソト王国の首都はマセルという町で、やけにストリートビューが充実していたから、ぜんぜん本文に関係ないものの、その景色を紹介してしまう。
アフリカ人女性はしきりにこの国から脱出することを願っていたけど、どこを探しても高層ビルはなく、まるで国全体が信州の野辺山あたりのようで、わたしにはとても素敵な国に見えた。
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ここには「マレツニャーネ滝」という観光ポイントがあるというので、それも観ていこう。
わたしのこのブログはバーチャル旅行なので、つまり事実をもとにした空想旅行なので、セローの本から脱線して、見たいところにはみんな寄ってしまうのだ。

深夜というか、早朝というか、セローはヨハネスブルクに着いた。
となりのアフリカ女性にいわせると、ここはとても危険な街だそうである。
セローの旅はいまから20年もまえのことだから、いまでも危険なのだろうか。
外務省の海外安全情報というのを見てみたら、ヨハネスブルクは「レベル3:渡航は止めてください。(渡航中止勧告)」になっていた。

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