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2022年7月25日 (月)

ベラルーシという国

だいぶまえに録画しておいた「潜入ベラルーシ」というドキュメンタリー番組を観た。
ベラルーシはソ連時代にロシアを構成していた国のひとつで、現在でもロシアを擁護する数少ない国のひとつ。
ウクライナ戦争では西側の国々から憎まれている国である。
いったいどんな国なのかと、フランス人ジャーナリストが、一般観光客をよそおってベラルーシを見てまわるというふれ込みの番組だったけど、NHKがこの時期に放映ということは、観るまえからロシアをけなすプロパガンダなんだろうなあと思ってしまう。
しかしそうであろうがなかろうが、ベラルーシという国についてひじょうに興味があったので、可能なかぎり先入観なしに観てみることにした。

わたしが知っていたベラルーシは、とにかくどうしようもない国ということだった。
ルカシェンコ大統領はヨーロッパ最後の独裁者といわれているくらいで、だからたぶん北朝鮮のような国なんだろうと思っていた。
わたしは北朝鮮の現状にも関心があって、北をとらえた写真や映像があると見逃さないようにしている。
こうやって普通ではなかなか見ることのできない国を知っておくことは、現実の世界をながめるのにも必要なことなのである。
ではベラルーシの映像はどんなものだっただろう。

最初に軍事訓練をするベラルーシ軍が出てきたけど、使われている火器はロシア製のDP28という、大戦中に使われた古い機関銃だったからおどろいた。
じつはこれは観光客のための戦争体験ショーなんだそうで、欧米の観光客が観光目的でどうどうとベラルーシ国内に入れることがわかり、またおどろいた。
それでは人々はどうなのか。
走っている車はキューバのように骨董品ばかりで、飢え死にしそうな浮浪者がそのへんをうろうろしてないか。
取材者もそのへんは心得ていて、ガイドをやとって街の人混みやデパートのなかなど、お仕着せでないところばかりを見てまわる。
その結果、少なくとも北朝鮮ほどひどい独裁国家ではなさそうだった。

プロパガンダというのはあからさまに本音がバレては失格だ。
以前観た「戦場の大統領ゼレンスキー」というドキュメントは、プロパガンダだとしてもよくできた作品だったけど、今回の「潜入」はダメだな。
あまりにも白黒がはっきりしすぎて、なんだか無理やりルカシェンコとベラルーシの欠点をあげつらっているように見える。
市民たちは不満をかかえてはいるものの、世界にはそういう国はたくさんあると公平な見方をすれば、スターリン時代のロシアなんかに比べても、よほどマシな国に見えた。
インターネットも使えるし、女性たちはいまふうのおしゃれをしているし、北朝鮮のように選ばれたエリートたちをエキストラに使って、外国人にはいいところばかりを見せるような小細工はしてないようである。

ひとつ感心したのは、番組のなかに登場したフランスのもと外交官という人の発言で、プーチンとルカシェンコは愛憎が入り混じっているというもの。
わたし個人の考えでも、プーチンの性格は日本の武道家のいさぎよさに惚れているようなところがあり、ルカシェンコのようなタイプは好きではないように思える。
どんなに苦境にあっても、ぜったいにベラルーシから兵士や火器の支援は受けないというのが、その証拠に見えないか。
しかし現在のようにロシアが世界中から集中いびりをされている状態では、気に入らない相手でも大事にしなければならない。
愛憎が入り混じっているというのはこういうことをいっているのだろう。
なかなか炯眼というべきだ。

取材していたフランス人ジャーナリストは、最後はバスに乗ってベラルーシを脱出するんだけど、外国までの路線バスが普通に走っていることに驚いた。
国境で取り調べに手間がかかったというものの、彼は無事に解放されてリトアニアにたどり着いている。
これではわたしが想像する北朝鮮のような、国民の勝手な移動を禁止し、にらんだ獲物はぜったい逃さない恐怖の警察国家という感じがしない。
ひょっとすると独裁は独裁でも、どうせ誰がやっても同じだと、国民の多くはルカシェンコの政治に満足しているのではないかと思ってしまうではないか。
これではプロパガンダとしては失敗作なのだ。

番組のなかに、ベラルーシの大統領選挙でルカシェンコの対抗馬に立ち、その後迫害されて隣国のリトアニアに亡命しているスヴャトラーナ・ツィハノウスカヤという女性政治家が出てきた。
彼女はベラルーシを徹底的にこきおろし、ワタシが大統領ならロシアとはすぐに手を切るわと公言する。
これを観て思ったのは、たとえば中国のウイグル問題を西側のジャーナリストが取材する場合も、同じようなものになっただろうということ。
ウイグル人のなかにも、亡命して世界を行脚しながら、中国の非道を発信し続けている有名な女性活動家がいるから、とうぜん彼女へのインタビューも入ることになるだろう。
するととうぜん彼女は中国をボロクソにいうだろう。
現実の新疆ウイグル自治区を知らない者が観たら、これはすべて真実だと思ってしまうのではないか。

わたしはベラルーシのことは知らなかったけど、ウイグル族のことは、じっさいに新疆ウイグル自治区まで行ったこともあるし、日ごろから中国に関心があって、いろんな情報に接しているせいもあって、西側から非難されるほどひどくはないということを知っているのである。
どんなに公平を装っても、取材する側に最初から偏見があれば、結果的にはプロパガンダになることが多いから、これはそういう番組を観るほうの責任でもある。

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