ぐるっと黒海の続き
野村佑香ちゃんの「ぐるっと黒海4000キロ」の再放送を観てみた。
再放送といっても、オリジナルは前編後編で3時間もある紀行番組で、新しいそれ(黒海2013)は、ロシアとウクライナに関する部分だけを編集して、50分の番組に作り変えたものだった。
どうしてこんなことをしたのかは、わたしのブログを読んでいる人ならとっくにわかっているね。
紀行番組の好きなわたしは、オリジナルも録画してDVDに焼いてあったから、比較しながら観てみた。
オリジナルを最初に見たときは、タレントさんの案内で、現実に歴史事実を交えた、NHKがよくやっている海外の紀行番組としか思わなかったけど、「黒海2013」では場面を省いたり付け加えたり、すでに子供までいる佑香ちゃんに、新しいナレーションを担当させたりして、徹底的にロシアをおとしめようと工作してある。
NHKの苦労のあとがありありとしていて、なかなかおもしろかった。
このあいだまでロシアが封鎖したと騒がれていたオデッサ港から、佑香ちゃんはウクライナに上陸するんだけど、この港は映画「戦艦ポチョムキン」の主要舞台になったところで、ロシア帝国が抵抗するデモ隊を容赦なく虐殺したところだ。
「黒海2013」をいま観ると、あちこちに“ロシア帝国”という言葉が出てくるから、そのころからNHKはロシアに偏見を持っていたのかなと思ってしまう。
しかしいくらロシア帝国がキライでも、それを先頭に立って打ち倒したのはロシア人自身なんだけどね。
番組の背景に映るオデッサの街は、“黒海の真珠”と呼ばれるのにふさわしいくらい美しい街で、個人的にはプーチンが、こんな美しい街を、戦火にまきこみたかったかと思う。
米国にとっては他国の街で、モッタイナイと惜しむ必要はなかっただろうけど。
佑香ちゃんはウクライナの農民の家に招かれ、ご馳走になったり、いろいろ話を聞く。
このへんは親しみやすいロシア農民の家庭そのものだ。
ロシアの農民の他人に対する親切なこと、人なつっこいことは、わたしもじっさいに体験したことがあってよく知っている。
ここで佑香ちゃんは、ボルシチがもともとはウクライナ料理だということを知るんだけど、オリジナルを観たころはあまり関心がなかったもので、これはわたしも知らなかった。
だからといって韓国みたいに、料理の国籍にまでこだわってもないようだから、あのへんの国のおおらかさもよくわかる。
わたしはロシアの駅の立食スタンドで、日本のにぎり寿司を食べたことがあるよ。
農民は佑香ちゃんを自分の畑に案内するんだけど、いやもうその広いこと。
地平線の彼方まで続く小麦畑といっていいくらいだった。
NHKは巧妙にロシアをけなす方向で、オリジナルを再編集したらしいけど、このあとさすがに編集しきれなかったのか、佑香ちゃんと農民の会話に、ウクライナの本音がいくつか。
佑香ちゃんがソ連時代のほうがよかったですかと聞くと、その時代を経験しているお婆さんは、ダー、ダー(そう、そう)と返事するのだ。
あのころは近所のつきあいも多かったのに、いまは隣りの顔も知らない。
むかしのほうがよかったとこぼすのである。
たんなる郷愁ではない証拠に、彼女の息子もいう。
ウクライナはEUに加盟したがっているけど、そんなものを望んでいるのは都会に住む人だけだ。
ウクライナがロシアから独立したあとも、わたしたちの状況はぜんぜん変わっていない。
みなさんにも考えてほしいんだけど、これだけ広い農地を持ち、小麦の生産では有数の豊かな国であるはずのウクライナが、ヨーロッパで最も貧しい国のひとつというのはどうしてだろう。
これはウクライナのほうに問題があるとは思わないのだろうか。
ふつうに考えても、ウクライナはマフィアのようなオリガルヒ(新興財閥)に、生き血を吸われ続けている国というのは事実じゃないのか。
わたしか知っているロシアは、グローバル国家として成長を続けているのに、ウクライナはなぜそうできないのか。
プーチンはいわれているような残忍な独裁者なのか。
オリジナルでは佑香ちゃんは、ウクライナのあとロシアに行くんだけど、当時のロシアはソチ・オリンピックを控えて、将来に健全なる夢と大いなる希望をいだいていたころだった。
もちろん新編集の「黒海2013」では、そんなものまったく省略だ。
つけ加えたものは多い。
番組の最後に、佑香ちゃんが世話になったウクライナ農民からのメールが紹介される。
2月24日、わたしたちはみんな爆発音で目をさました。
子供たちの「ママ戦争だよ、21世紀なのにどうして?」という言葉がとても恐ろしかった。
とあり、このあと
小麦が輸出されるウクライナの港はロシア軍に封鎖されている。
この戦争で何百万人もの人々がウクライナを離れ、多くの企業が閉鎖され、多くの人が仕事を失ったままになっている。
誰も他国の領土を奪う権利など持っていない。
という文章が続くけど、これはNHKが勝手につけ加えたものだろう。
地方のウクライナの農民に、この戦争でそんな詳しい戦況が把握できただろうか。
NHKよ、もうよせ、こんなことは。
といっても戦争といっしょで、上司のプライドがかかっているからやめられないだろうな。
そのうちアメリカでは政局が変わり、はしごをはずされて、日本だけがロシアの矢面に立たされそうな気がするよ。
そのときはまた、こないだまでボロクソにいわれていた鈴木宗男さんあたりにご足労願うしかないか。
広島の平和記念式典に参加していたウクライナ女性も、NHKのニュースのなかで、早くウクライナとロシアがむかし通りの仲のよい国にもどってほしいといっていた。
注意して観さえすれば、NHKの放送のなかにも、ウクライナ人の本音がこぼれることは往々にしてあるものだ。
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