« 冷静に | トップページ | また真実 »

2022年9月26日 (月)

ゴルバチョフの遺言

R03_20220926000801

BSで放映されたドキュメンタリー「ゴルバチョフの遺言」という番組を観た。
2020年制作のラトビアとチェコの合作映画で、 91歳で亡くなったばかりのソ連のもと指導者ゴルバチョフに、死ぬすこし前にインタビューした記録映画である。
老いてまん丸になったゴルビー(ゴルバチョフ)と、わずかな知人、召使いやコックぐらいしか登場しない45分の番組だったけど、ウクライナ戦争が始まるまえに制作されたものだから、現在のようにプロパガンダの心配なしに観られたのはよかった。

晩年のゴルビーは、かっての東欧の国の指導者たちから期間限定で、つまり彼が生きているあいだだけという条件で、プレゼントされた大きな邸宅で暮らしていた。
奥さんにはとっくに先立たれているし、3人いる娘たちの家族とも疎遠だけど、老人ホームですごす年寄りと思えば、まあまあ恵まれているほうだろう。
足腰の弱った彼のために邸宅内部にエレベーターが増設されたりして、国民からまるっきり疎外されていたわけではなさそうだった。

この番組のなかにはいくつか注意して聞かなければいけない箇所がある。
たとえばゴルビーと現在の大統領であるプーチンの関係はどうだったのかということで、これについて「彼はプーチンとたもとを分かった」というセリフが出てきた。
しかし政敵になったというほどのものではなく、たぶん日本の安倍もと首相が岸田クンを評する場合と似た感じじゃなかったろうか。
安倍クンも岸田クンをみて、ちょっとオレとは路線が違うなと思っていただろうから。
プーチンはゴルビーの葬儀に参列しなかったけど、べつに責められる理由はない。
現職の大統領としては、国民の顔をうかがわなければいけない事情もあっただろうし、花輪を送るていどのことしかできない場合もあっただろう。

R05_20220926000801

番組制作の当時、ゴルビーが奥さんのライサさんに先立たれてから20年が経っていた。
ライサさんといえば旦那といっしょに日本にも来たことがあって、わたしにもきれいな人だったという印象が鮮明だ。
そんな彼女の遺影が番組のあちこちに現れる。
いささか辛辣なインタビュアーが彼に、「奥さんが亡くなったとき生きている意味がなくなった」といわれましたねと訊くと、彼は人生や人を愛することについて、ひとくさりつぶやいたあと、ウクライナの民謡を口ずさむ。
90歳のじいさんがごそごそと歌うのだから、すてきな歌には聴こえないけど、字幕がついたから歌詞と、大ざっぱなメロディだけはわかった。
歌詞はこんな調子である。
 山は高くそびえ ふもとには森が茂る
 緑深き森 これぞ楽園
 木立のわきを流れる川 鏡のようにきらめいて
 緑の渓谷を 川は流れてゆく
 静かな川岸には 舟がつながれ
 柳が3本 こうべを垂れる
 悲しみにくれるかのように 
 悲しいのは美しい夏が終わるから
 冷たい風が吹き 木の葉ははぎとられ
 川に流されてゆく
 愛しい川よ 春はまた来る
 しかし若さは戻らない 二度と戻ってこない

わたしがこの番組を観ていたのは23日の深夜で、雨音とともにときおりごろごろと雷鳴が聞こえた。
ひとりぼっちでものを考えるにはいい条件で、こんな時間を独占していると思うと、とてもゆたかな気分になるし、晩年の人間についていろいろ考えさせられる。

番組の最後にゴルビーは、モスクワのノボデヴィチ墓地にある亡き妻の墓に詣でる。
ここはわたしも行ったことのある場所だけど、ライサさんの墓のかたわらに立つ乙女の像もそのままだった。
ここでもういちどウクライナ民謡の歌詞が流れ、「しかし若さは戻らない」という、全世界の年寄りに共通する述懐がある。
あのころに帰れるものなら帰りたいねえと、わたしも思う。
ええ、このつぎはもうすこしまっとうな人間に生まれて。

R04_20220926000801

このドキュメンタリーは、意図したわけじゃないだろうけど、自然にロシアとウクライナの親密な関係を物語る番組になっていた。
ロシア人のゴルビーがウクライナ民謡を歌うのもそうだし、番組のなかでライサさんの父親はウクライナ人、母親はロシア人だったことが語られる。
ゴルビーの父親もロシア人、母親はウクライナ人だったから、戦争が始まるまえまでこの両国がどのくらい親しい関係だったかわかるはず。
いまでも他国に侵攻したロシアが悪いと信じている人がいるけど、わたしの個人的な意見をいわせてもらえば、ウクライナがアメリカのような、金がすべてのドライな国になってほしくなかった。
わたしはロシアとウクライナが、いつかそこにもういちど行ってみたい国であってほしいと願っているので、プーチンの気持ちも十分に理解できてしまうのである。

| |

« 冷静に | トップページ | また真実 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 冷静に | トップページ | また真実 »