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2023年3月 7日 (火)

義憤

わたしがなんでそんなにロシアの肩ばかり持つのか、不思議に思っている人がいるかも知れない。
わたしにいわせれば、それは義憤というものなんだけど、今回はそのへんを説明しよう。

「ロシアン・ブラザー」という映画があった。
アメリカ映画によくあるようなヒーローもの映画で、エイゼンシュテインやタルコフスキーを想像するとガッカリしてしまう、ただのギャング映画である。
ゴルバチョフの改革のあと、ロシアには国のプロパガンダではない、西側と同じような娯楽映画が氾濫して、これもそういう映画のひとつ。
主人公を演じたのはセルゲイ・ポロドフJr君という、ギャングらしからぬやさ男だったけど、数本の映画に出演したあと、事故で亡くなった。

映画は1997年の製作なので、プーチン大統領が登場する直前ごろの、ロシアの風俗が描かれていて興味深い。
ナイトクラブにたむろする若者たちや、麻薬におぼれる青少年など、まったくアメリカといっしょで、法の支配がゆるんだ国というのは洋の東西を問わず似たようなものになるらしい。

この中にギャングに牛耳られた市場が出てきた。
市場というものはギャングの利権の温床なので、この映画にも縄張りである市場を見まわるギャングの親分が出てくる。
この親分は敵対するギャングに雇われた殺し屋、つまり主人公に撃たれてあえなくお陀仏になっちゃうんだけど、当時のロシアの市場がどんなものかという参考になる。

ロシアだけじゃない。
ギャングまがいの政治家に牛耳られる国というものは、世界中にけっしてめずらしくない。
ゴルバチョフが登場して、結果的に国が分裂し、それまでロシアの属国のようだった国家群がいっせいに独立したとき、権力移譲をめぐって多くの国が混乱した。
ポーランドやチェコスロバキアのように、まじめに権力移譲が行われた国もあれば、ウクライナやベラルーシ、カザフスタンのように、ロクでもない権力者がトップに居座った国もある。

じつはロシアもそうした国のひとつだったのだ。
分裂したといっても、ロシアには豊富な資源があったから、いきなり到来した自由主義の下で、制約のタガがはずれたオリガルヒ(新興成金)たちがこれを見逃すはずがなかった。
ゴルバチョフのあとを継いだエリツィンは、酒が大好きの呑ん兵衛大統領で、こういう連中を抑えるだけの力はなく、ロシアもギャングまがいのオリガルヒに食いものにされるのは時間の問題と思われた。

そうしたときに登場したのがプーチンである。
彼はオリガルヒのいいなりになるつもりはなかった。
大統領になったプーチンは、オリガルヒたちがにぎっていたエネルギー利権を取り上げ、これは国家で一括して管理することにした。
なにしろKGB上がりの、もと警察官僚のような剛腕大統領だから、抵抗したオリガルヒのなかには刑務所に叩っ込まれた者もいた。
わたしはこういうニュースを胸がすくような気分で眺めていたのだ。

プーチンが偉かったのは、もしそうする気があれば、権力のトップにいる自分が富を独り占めし、北朝鮮のような国民を顧みない独裁者にでもなれたのに、そうしなかったことである。
彼は国民が安心して仕事ができるよう、そのうえでひとしく豊かになれるよう、つまりロシアを、日本やヨーロッパと同じグローバル国家に変貌させたのだ。
ココログのブログに「ロシアは隣の国」という、女の人がやっているものがあるから、参考にしてもらいたい。

わたしはプーチン後のロシアに3回行っている。
入国になにも問題はなかったし、街を自由にぶらついても文句をいわれることもなかった。
わたしの知り合い(の知り合い)は日本製の4輪駆動車に乗って迎えに来て、平気で日本をほめ、ロシアをけなしていた。
サンクトペテルブルクまで往復するために2度もロシアの新幹線を利用したけど、雪の積もった冬の時期なのに、時刻どおりに運行されていたのに驚いた。
日本以外の国で鉄道がまともという国はめずらしいのだ。

とはいっても、まともな国なら鉄道くらいで騒ぐことはない。
わたしは日本のNHKが、それまでは世界に通じる大統領と称賛していたくせに、米国の扇動にのって、手のひらを返すように正反対のことを言い出したことが許せないのだ。
ロシアの大統領はロシアの安全保障に責任があり、看過できない事情もあるのに、そんなものは一顧だにせず、まるでならず者のようにいうのを聞いて我慢ができなくなったのである。

わたしはプーチンという人が好きである。
あの目つきがキライという日本人もいるみたいだけど、彼は黒帯の有段者で、あれは武芸者の目である。
ようするに“バカボンド”の目なのだ。
ロシアがプロパガンダに熱心でないように見えるのも、彼は卑怯な手段をとることを恥とこころえる、侍スピリットを持った人間だからだろう。
日本では右翼や体育会系に好まれるタイプなんだけど、最近はそっちのほうにもろくなのがいないしなあ。
わたしがロシアの肩ばかり持つのはこういうことだ。

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