チベット問題の2
中国政府はいままた「ルランガル・ゴンパ」の町を取り壊して、観光地として売り出すためにさまざまな改造を行っている。
4000メートルの高地にあるこの町に、中国政府は新しい道路やホテル、飛行場まで作っていた。
寺院を中心とした観光名所にしようということで、これはお寺の自立を促すということにもなるから、中国政府のやり方が間違っているとはいえない。
神聖な寺院を観光地にするのはケシカランというわからず屋はどこにでもいるけど、長野の善光寺でも京都の清水寺でも浅草の雷門でも、寺院が積極的に観光客を誘致しているのは日本も同じである。
中国はむしろ日本をお手本にしているのかも知れない。
改造工事中に町を追われる坊さんが出てきた。
企業改革でいきなりリストラさせられたサラリーマンのようなものだ。
強引すぎるという人もいるだろうけど、わたしはタイに旅行に行ったとき、遊ばせておくのはモッタイナイと、若い坊さんが暑いなか、寺の境内で土方仕事をさせられているのを見たことがある。
チベットに坊さんが多いのは、国が貧しかった時代、少しでも多くの人を養うために互助的な考えから生まれたシステムだろう。
むかしの日本でも貧しい農村では、食いぶちを減らすために、子供をお寺に放り込むことはよくあったのだ。
国が豊かになれば無為徒食の坊さんをたくさん抱えるより、仕事をしてもらったほうがいいに決まっているし、町が新しくなれば仕事も増える、だから坊さんも自分で仕事を見つけろというのは、資本主義国ならどこでも見られる光景だ。
番組にはホテルや飛行場だけではなく、チベット仏教の経典や書籍を保存する「印経院」という博物館も出てきた。
世界遺産に相当するような、貴重な経典を後世に伝えるためのものだそうで、じっさいにいまでも手刷りで古い経典が印刷され、土産ものとして売られていた。
中国政府はチベット人のアイデンティティを守る活動もしているのである。
わたしは以前、貧しいことで知られる黄土高原から、農民を集団移住させようという中国政府の試みを、テレビ番組で観たことがある。
住みなれた土地から町に引っ越しさせるのだから、いろいろ問題が生じるけど、行った先に仕事がなければ困るだろうと、中国政府は住人に職業訓練をしたり、年寄りには日本でいうところのシルバー事業のような楽な仕事をあっせんしていた。
こういうものを冷静に、公平にながめれば、国民のすべてに繁栄の分け前を与えようという中国政府の努力は否定できない(習近平さんの写真がやたらに出てくるのが欠点だけど)。
政府が中心になって国家をよく統制し、すべての民族に公平に繁栄の分け前を与える。
とくに中国の場合、放っておくと格差がアメリカなみに拡大する国民性だから、政府の規制があるていどうるさいのも納得できることだ。
いや、なにがなんでもケシカラン、他人の国を占領することだけでも許せないという人もいるかも知れない。
しかし中国には自治区の下に自治県というものもあり、じつに多くの民族が国内に散らばって暮らしている。
民族を特定の地域にきちんと区分けするのが無理な国なら、どうしてみんなが仲良く暮らそうとしないのだろう。
わたしがかって足しげく大陸中国に行っていたころのこと。
あちらではよくタクシーを利用した。
しかし気の弱いわたしは運転手と無言でいるのに耐えきれず、お世辞たらたら世間話をしようとする。
世間話をするには中国語が話せなければならないけど、わたしのボキャブラリーは多くないので、話のきっかけとして「あなたは何族ですか」と聞くことにしていた。
おもしろかったのは、彼らが、オレは漢族だよとか、わしは回族、アタシは朝鮮族、雲南から出稼ぎに来たペー族です、カザフだ、キルギスだと、じつにいろんな民族がいたこと。
彼らが平気で自分の出自を明かすことからして、この国では民族による差別はないなと確信した。
わたしは国家権力の暴力というものもよく知っていて、そういうものにもいつも注意をはらっているから、現在の中国政府のやり方が特別にひどすぎるとは思わない。
民主主義も国によっていくつかの方式があっていいと思う。
現在のラルンガル・ゴンパは外国人でも旅行ができるらしいから、ぶつぶついうなら行って見てくればいいではないか。
このドキュメンタリーで気になったのは、かって鳥葬というものがあって、定期的に人間の肉を食べていたハゲワシたちが、観光地化されたラルンガルで(鳥葬も禁止されるだろうから)ひもじい思いをしないかということだ。
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