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2023年9月19日 (火)

短い命

『彼は短い命を思ひ、もう一度この椰子の花を想像した。この遠い海の向うに高だかと聳そびえてゐる椰子の花を』

これは芥川龍之介の「或る阿呆の一生」のなかの一節。
彼が血痰を吐いて、自分の命が長くないことを悟り、しみじみと述懐する場面である。
わたしの場合、血痰を吐いたわけでもないし、寿命だってもう芥川よりずっと長く生きている。
だから椰子の花を連想することもないんだけど、今夜も散歩に出かけて、あることがきっかけでこの小説の一節が身に沁みた。

散歩していると、木星は頭上にきらきらと輝いて、夜空の星がとてもきれいだ。
それはいいんだけど、空を見上げるとそのあとでかならず頭がくらくらする。
昨夜は途中にあるベンチにへたりこんでしまった。
自分ももう長くないなと思う。
いまブログで中国の紀行記を連載しているんだけど、構想としてはまだ2、3年はかかるくらい膨大なものなので、おそらく最終回まで生きちゃおれんだろう。
自分は文章を書いたり、調べものをするのが好きな性分だから、残りの人生は、こんな幸せなじいさんもおるまいと、自分を慰めるしかないようだ。

彼は短い命を思ひ、もう一度この椰子の花を・・・・
わたしの場合、困惑したアライグマの顔でも連想したらいいだろうか。

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