ケイン号の叛乱
映画「ケイン号の叛乱」がテレビ放映されたので観た。
傑作とかいう評価があったような、ないようなという映画で、ようするにわたしもこれまで関心を持つような、持たないようなという中途半端な映画で、真剣に観たのは今回が初めてである。
観るまえは、似たような映画にバウンティ号の叛乱というのがあったから、てっきり帆船時代の映画かと思っていた。
そうではなく、第2次世界大戦のころの映画で、タラップで艦橋に登ったり、頑丈な鉄製の防水隔壁などの艦内装備が、ちょうどわたしが自衛隊にいたころ乗り組んでいた艦と同じようなものだったから、そういう点では興味が湧いた。
ケイン号は軍艦であるものの、これは戦争映画ではなく、一種の法廷劇である。
無能な艦長に操られて座礁しかける艦を、無理やり艦長を交代した副長が救うんだけど、そのために副長は軍規違反で叛乱者の汚名を着せられ、軍法会議にかけられる。
軍隊で叛乱の罪は重く、有罪なら絞首刑だ。
ただわたしなんかが見ると、この程度で絞首刑はひどすぎるような気もする。
いくら軍隊といえども、緊急時で、双方の言い分が対立する場合、有罪としても禁錮◯◯年で済むんじゃないか。
それはともかく、最初のうち相手の検事(軍法会議だから検事も弁護士も軍人である)が有能で、おまけに味方だと思っていた軍人が裏切ったりで、副長のほうは分が悪い。
しかし最後になって副長の弁護士が当事者の艦長を追及し、艦長の無能ぶりを暴く。
つまりハラハラさせながら、最後の土壇場で形勢逆転のある、そういう話なのかと思った。
しかしそれにしてはハンフリー・ボガートの演じる艦長が、追求されるとまもなくポケットから鉄製の玉を取り出し、手で弄ぶという異常者の本質をさらけ出して、これではあっけなさすぎる。
映画「ニュルンベルク裁判」にもモンゴメリー・クリフト演じる異常者が登場するけど、そっちのほうは執拗な追求に耐えきれなくなって、徐々に知恵遅れを発揮するところが真に迫っていた。
こんなふうに簡単に形勢が逆転してしまったので、わたしは期待したほどいい映画ではないと思った。
ところがこの映画の主題は、軍法会議で勝った負けたではなかったのだ。
無実を勝ち取った副長らが乾杯をしているところに、弁護を担当した軍人があらわれて、勝ったことは勝ったけど、後味が悪いという。
じつはこの映画の主要テーマは、軍隊というところは上官がどんなに無能でも、おとなしく従うところなんだということだったのである。
そういわれれば、似たような例はいくらでもある。
ウクライナで兵士たちがむざむざ死んでいくのもそうだし、日本の首相のもとに役人の原稿を読むしかない政治家が集まったり、南アフリカに飛ばされるのが怖くて従順なアナばかり揃った某公共放送など。
最後まで観てようやく傑作たる所以がわかった。
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