中国の旅/ウルムチ駅
ウルムチの駅に着くと、ホームの下の地下道から改札までずらりと女性駅員が並んで、下車してくる客を監視していた。
大枚272元も払って正規に切符を買ったわたしがおびえる必要はないけど、めずらしかったのは、その中に金髪のロシア系と思える女性もいたこと。
中国も新疆まで来ると、さまざまな民族の十字路なのである。
ウルムチの駅まえ広場には、民族の融和をはかるという大きなモニュメントがそびえていた。
最近の写真を調べると、いまでも同じところにそびえているようだけど、どうもわたしが見た駅とは建物の感じがちがう。
どうやらその後、駅の建物は建て替えられたらしい。
と思ったら、最近のウルムチには別の場所に、まったく新しい新幹線の駅が出来ていた。
わたしが降り立ったウルムチ駅は、ウルムチ南駅となってローカル駅に格下げのようである。
ほかにもグーグルマップを見ると、いたるところに高速道路も出来ていて、こんなものはわたしが行った1997年には影もかたちもなかったものである。
とかく搾取だ、迫害だと欧米から非難される新疆やチベットに、これでも文句があるのかといわんばかりに、中国政府は金を注ぎ込んで、街の景観を一新させてしまったようだ。
ウルムチが新疆ウイグル自治区の省都であることはいうまでもないけど、詳しいことはリンクを張っておいたから、またウィキペディアを参照してほしい。
駅前にタクシーがたくさんたむろしていた。
こういう手合いにはロクなのがいないはずだから、少し離れた所でタクシーを拾おうと500メートルも歩いたのに、それでもロクなやつはいなかった。
タクシーの運転手に崑崙賓館へ行ってくれと指示する。
ガイドブックで見つけたホテルで、遠いのか近いのか、具体的なことはほとんどわからない。
走り出したクルマで外の景色を眺めていたら、最初正面にあった太陽が右になる、右にあったそれが後方になる、後方からさらに左になって、さすがにおかしいと気がつき、どこを走ってんだと文句をいうと、ぶつくさと言い訳をする。
けっきょく35元も取られたけど、あとで聞いたら20元以下でいいそうだ。
ウルムチ市内を走っているタクシーはほとんど赤いシャレードで、サンタナ・タイプはあまり見ない。
ほかに3輪タクシーもちらほら。
基本料金は10元からで、毛単位でメーターが上がる。
崑崙賓館はロシア風の建物であるというので選んだのだけど、べつに屋根にタマネギが乗ってるわけでもなく、ようするにソ連時代の没個性的なアパートのようなホテルだった。
ホテルのフロントにはウイグルの女の子が働いていた。
ここではウイグル人が特別に多いこともあるだろうけど、彼女や駅の金髪駅員をみても、中国が少数民族を特に差別しているようにはみえない。
外国人のわたしは問答無用で新館のほうへ案内されてしまった。
ホテルに到着したのが朝の7時(こちらではまだ早朝だ)で、新館服務員の小姐(大姐?)は髪をかきわけながら出て来た。
わたしの部屋は347号室、エアコンなし、扇風機つき。
ホテル代は250元くらいのもので、押金(保証金)として400元取られた。
するともう大きなお金がない。
仕方がないから100元足らずの金をもって近所へ散歩に出ると、500メートルほど離れた大きな交差点ぎわに露店が出ていた。
ここでトマト、キュウリ、乳酸飲料などに、餃子ふう包子などを買ってもどる。
乳酸飲料は中央アジアが本場だったような気がする。
容器の素朴さをみると、ひょっとすると農家の手作りかも知れず、あんまり飲むと下痢するかも。
ホテルにもどると3階の服務員が、フロントに行って下さい、なにか用事がありますという
行ってみたら、ホテル代のことで、さっき250元といったけど、あなたは外国人だから384元ですという。
そんな金額に値しないホテルのような気もするけど、その場で押金から清算しておつりをくれた。
それでも街をぶらつくには不安だから1万円を両替しようとすると、ウチでは日本円の両替をしていませんという。
飛行機や列車の予約もしてくれそうにない。
まず日本円を人民元に替えないとどうにもならないので、ウルムチでいちばん大きな新彊暇日大酒店(外資系のホリディインらしい)というホテルに行ってみることにした。
新彊暇日大酒店は人民公園のそばにあると、ホテルの所在地だけはわりかし詳しく調べてあったのだ。
人民公園までタクシーで飛ばし、公園のわきからぶらぶら新彊暇日大酒店まで歩く。
このホテルでは問題なく、パスポートの提出も求められずに両替ができた。
ついでにひと晩いくらですかと訊いてみると、1万いくらですといわれ、もっと安い部屋はと訊くと700元ですという。
700元というと9800円。
おいおい、あんまり調子に乗って足もとを見るなよといいたくなる。
高いことはよくわかったので、何かおもしろいものはないかと、つぎに駅へ行ってみることにした。
ここまでどうもウルムチには失望だった。
なんとなくなじめないのは、ウルムチの街がかなり大きいことで、素朴さに無縁な街であるようだからである。
わたしはこの街がもう少し民族色ゆたかな街だと思っていたんだけど、表通りには近代建築が立ち並び、ちょっと路地の奥をのぞいてみても、ソ連時代のアパートのような建物ばかりである。
タクシーの1件にもよるけれど、なんとなく出足からいやなところという感じがする。
話に聞いていたウイグル人のバザールというのはどこにあるのだろう。
ウルムチは、上海にはおよばないものの、にぎやかさでは蘭州や洛陽におとらない近代的な街である。
若い娘たちはミニスカートから長い足をのばして街を闊歩している。
その合間に、頭にスカーフをまき、はなやかな柄のワンピースを着たロシア風の女性、カラフルな服と派手な装身具のウイグルの娘、頭に帽子をかぶった回族の人たち、白くて丈の長い服をまとったイスラム教徒などがまじる。
わたしは街を歩いていてかたわらの街路樹を眺めた。
クスに似て、もっとやわらかな葉の木が多く、カエデやアカシアもある。
わたしはこの日に7、8回もタクシーを利用した。
ウルムチは自転車でまわるには大きすぎたし、タクシー代は日本の路線バスとそんなに違わないのだ。
あまり中国語のボキャブラリーが豊富でないから、とりあえず話のきっかけをつかむために、乗ればかならず運転手の出自を尋ねた。
どうやらウイグル人の運転手のほうが漢族より多いようだった。
タクシーは駅の近くで下ろされてしまった。
ここから地下道を通ってすぐに駅前に出られるというんだけど、地下道には小さなマッサージ店が軒を接していた。
ひとり1店という感じで、厚化粧の女の子がガラス張りの店のなかの、外からよく見える位置に頑張っているから、オランダの飾り窓のようないやらし系の店だったかも知れない。
人通りの多いところだから、試しに入ってみるには勇気がいる。
駅の売店で、時刻表ありませんかと訊くと、女の子がハーイと駆けていって、どこからか時刻表を持ってきた。
日本人ですかと嬉しそうである。
地図や時刻表ばかり買っているようだけど、どこかに行く予定がなくても、旅好きにとってこれはなかなか有益なものなのだ。
このあと、ついでに駅のまわりをうろついてみた。
駅まえ広場のすぐまえには移動トイレ車が停まっていた。
中国では公衆トイレも有料のところが多いから、こういう車を持っていれば、自動販売機を設置するように日銭を稼げるのかも知れない。
ウルムチ駅の背後には茶色の山がそびえている。
その山のふもとの斜面にびっしりと古い民家が並んでいる。
あそこに行ってみたいな、あそこに行けば古いままのウルムチが見られるだろうなと思ったけど、目で見えてもそんな簡単に行ける場所ではなさそうだった。
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