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2024年7月10日 (水)

中国の旅/肉欲の宴

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ウルムチ空港に着陸したのが22時45分ごろ。
案ずるより生むがやすしで、なんのトラブルもなくウルムチに着いた。
夜間飛行だから、このあいだ砂漠の景色なんかひとつも見えなかったことはいうまでもない。
追い立てられるように外へ出たので、空港がどんな建物だったのかもまるでわからなかった。
荷物を受け取るときちらりと見ると、同じ飛行機に日本人のグループも乗っていた。
年配の人ばかりで、「シルクロード◯泊◯日」というようなパック旅行らしい。
添乗員さんに点呼されている彼らを尻目に、わたしはさっさとタクシー乗り場に向かった。

ウルムチのタクシーは6元が基本で、車種は圧倒的にシャレードが多い。
その中にシトロエンやサンタナが混じる。
ひと回り大きいサンタナはいくらか知らないけど、シトロエンも基本料金はシャレードと同じ。
このときのタクシー運転手は、一見してウイグル人とわかるやせぎすの若者だった。
以前に泊まったことのあるホテルに行くつもりで、おい、華僑飯店だ、50元だぞ、まわり道をするなよというと、メーターで行きますと仏頂づら。
これは、あまり高飛車なわたしも悪いよな。
あそこはよくありませんよ、わたしの知ってるホテルのほうがいいですという。
だまされるものかと思ったけど、以前と同じホテルというのも味気ないから、それじゃ見るだけといって、「友好大酒店」というそのホテルに寄ってもらうことにした。

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片言の会話で日本人であることや、ウルムチは2回目の訪問だなんて話しているうち、だんだん打ち解けてきた。
空港で並んでいるくらいだから、そんなに無法な運転手でもなさそうだ。
やがて市内に入り、あれがそうだというホテルのそばまでやってきた。
高層ビルが乱立するような場所ではなく、となりに新しいデパートのようなものがあるだけだから、ひときわ高いそのホテルはよく目立つ。
それよりなにより、わたしの目をひいたのは、ホテル近くの四ツ角にずらりと並ぶ屋台群だった。
この屋台を見るだけでも価値がありそう。

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ホテルで料金を尋ねると、安い部屋が289元だという。
わたしの許容範囲なので、ここに泊まることにして、運転手にタクシー代はいくらと訊くと、どういうわけか、メーターで40元以上出ているのに30元でいいという。
わたしが最初のこちらの言い値通り50元払うと、それでも嬉しそうだった。
これまであちこちでロクな運転手に会ってないから、こういう運転手に会うと気持ちがいい。

「友好大酒店」では、玄関まわりが改修工事中だったから、泥よけの絨毯を踏んでフロントで宿泊手続きをした。
カードもOKで、部屋は1224号ということになった。
12階である。
わたしは高層ホテルが好きではないんだけど、窓から外を眺めるとそうとうに高い。
とはいうものの、この日はもう夜だったので、じっさいに高いことを確認したのは翌朝になってからだ。

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荷物も解かずにさっそく屋台街へ出かけてみた。
日本人の、とくにベジタリアンもどきのわたしの度肝を抜くような肉の饗宴である。
もちろん新疆はイスラム教徒の土地だから、ヒツジがメインで、ブタ肉はいっさい使われていない。
日本の釜飯のようなものがあった。
一見すると海鮮丼に見えるものもある。
食べるまえにゲップがでそうなくらい、肉が幾重にも盛られている。
大きな釜に肉の細切れを煮込んだチャーハンのようなものがあって、客の注文があると、大きなスプーンでほじくり出していた。
もうあらかた食べ尽くして、底に白い骨しか残ってない鍋もある。
肉の好きな人なら興奮して欣喜雀躍というところだろうけど、肉の苦手なわたしはただただ戦慄するのみ。
どちらかといえば菜食の日本人にとって、ここは圧倒的な肉食の国である。

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わたしが食べた肉系のものは烤羊肉(串焼き肉)だけで、あとはアルコールが禁止ではなかったから、ビールも注文してみた。
ここで食べた烤羊肉は、西安に比べると倍くらい大きく、わたしは3串しか食べなかったのに、それでも腹いっぱいになってしまった。
この日は金曜日だったから、屋台は毎晩開かれているらしいけど、ウイグル人て自宅で食事は作らないのだろうか。
そう思いたくなるほど、この露天の肉欲の饗宴は果てることを知らなかった
ある店の親父が、どこの国から来たと訊くから、ジャパンと答えると、おお、リーペンといって、まわりの人々がいっせいにわたしに注目する。
中国人はともかくとして、日本人は決してウイグル人から嫌われてないと確信した。

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屋台の写真はたくさん撮ったものの、じつはこの晩は下見のつもりだったから、ここに載せたのはすべてこの翌日に撮ったものである。

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写真が翌日のものだから、話も翌日に飛ぼう。
ウルムチ到着の最初の朝は10時半に起きた。
わたしはウルムチに2泊したあと、南疆鉄度でつぎの目的地に出発するつもりなので、この日のうちに列車のチケットを手に入れておきたい。
ウルムチから最終目的地のカシュガルまで1463キロあり、それをノンストップで行くのもつまらないから、どこか途中の街に寄ることにした。
地図をながめると、クチャ(庫車)かアクス(阿克蘇)のどちらかが候補になりそうである。
じつはどちらの町もぜんぜん知識がないんだけど、なんとなく行き当たりばったりでクチャを選んだ。
あとで考えると、ここでもやはりツキがあったようである。

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時刻表を持ってないので、とりあえず駅に行くことにした。
ホテルを出ると、まるで5月の初頭のような、一瞬ひるむくらいさわやかな風が吹いていた。
駅までタクシーで9元。
ウルムチ駅のモニュメントは以前のままで、駅の背後の赤茶けた山並みももちろんそのまま。
駅前広場に通じる地下道には、どこか卑猥な感じのする、ガラス張りのマッサージ室みたいなのがずらりと並んでいたはずなのに、それはもう跡形もなかった。
いったいあれは何をする店だったのだろう。

駅前に無数にある売店のひとつで、時刻表ありませんかと訊いてみた。
駅舎の外では見つからず、駅舎のなかの売店でようやく手に入れたのは、全70ページほどの小さな時刻表である。
地図と時刻表を買って、いったんホテルへもどった。

ホテルで時刻表を吟味して、ふさわしい列車を選ぶ。
もともと本数は多くないんだけど、わたしにふさわしい列車は、ウルムチ発の606次15時09分というやつのようだ。
クチャ到着は朝の7時47分で、まあ、ちょうどいい時間だろう。
友好大酒店の商務中心に顔を出して、居合わせたお姉さんに、ここで列車の切符は手配できますかと訊いてみた。
かたわらに座っていた男がいきなり立ち上がって、できます、できますという。
こんなのに頼むと手数料をべらぼうに吹っかけられるに決まっているから、あとでねと、その場を退散。

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夕方になって自分でちょくせつ駅へ行ってみることにした。
中国では切符売り場が混雑するのて、外国人が並んで買うのはむずかしいと聞いていたのに、なんじゃらほいとあっけにとられるくらい簡単に切符は買えた。
わがままな駅で、切符の販売時間は1日3回と決まっていた。
08時00分から13時30分まで、15時30分から19時30分まで、21時30分から24時ちょうどまでだそうだ。
これ以外の時間は駅員たちの休憩にあてられているのだろう。
わたしは敦煌へ行った帰りに見た、駅の職員詰所におけるお気楽な駅員たちを思い出した。
午後の遅い時間になると売り場の行列も少ないようで、わたしがゲットしたのは、クチャまで軟臥が191元、下段が売り切れだというので8号車の002上段である。

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夜の22時ごろになって、写真を撮るためにまた屋台街に出かけてみた。
この時間でも完全に暗くなっているわけではない。
最初のうちは問題なく写真を撮りまくり、また烤羊肉やビールを飲んで屋台のウイグル人たちと懇談できたのに、そのうち一天にわかにかき曇り、いきなりものすごい突風が屋台を襲った。
屋台の天幕が風にあおられ、火の粉や紙クズが飛び、砂ぼこりが舞って目もあけられず、人々が右往左往する。
みんなあわてて天幕をしまい、看板を下ろし、屋台はほとんど開店休業の状態になってしまった。
砂漠の街ではこんなことはよくあることかもしれないけど、わたしも砂まみれになってホテルの部屋へ引き返した。
部屋にはカップラーメンや果物が買い込んであったので、あとはシャワーでも浴びて寝ることにした。

夜中の0時ごろ、ドアをノックする音がし、枕もとでブザーのような音が2回鳴った。
寝ていたわたしは寝ぼけまなこでドアを開けてみたけど、だれもいない。
ホテルが火事にでもなったにしては、べつの部屋の住人のおちついた会話も聞こえる。
外をうかがってみて、窓ガラスに水滴がついているのに気がついた。
屋台街のあたりを見下ろすと、道路が濡れ、灯りがにじんでいるのがわかった。
雨がかなり強く降っていた。
砂漠の街で雨かあとつぶやく。

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