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2024年7月28日 (日)

中国の旅/庫車河のほとり

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わたしがクチャという町に行ったのは2000年の6月である。
それから、あ、もう24年が経過した。
その後のクチャはどんなふうに変化しただろう。
ここにひとつの実例があるんだけど、わたしは若いころ海上自衛隊にいて、呉の江田島に8カ月ほど赴任していたことがある。
そのころよく広島にも遊びに行った。
広島が原爆の惨禍を経験したのは当時より20年ちょいと前だった。
にもかかわらず、もはや広島に原爆の惨禍を思い起こすものは、記念に残された原爆ドーム以外にはひとつもなかった。
これからしても20年という歳月は、ひとつの街を目に見えて変えるのに十分な時間だと思う。

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冒頭に載せた2枚の写真(プラス地図)は、中国のネットから見つけた最近のクチャの写真である。
大きなため池と、そのまわりのよく整備された公園が写っているけど、これも中国の発展の象徴だろう
わたしが行ったころは、田舎の小さな町にしかすぎないと思われたクチャは、よきにつけ悪しきにつけ、大変化をなしとげたようだ。
ここで“悪しきにつけ”という言葉を使ったのは、中国政府の主導による発展を、喜ばない人たちがいることを知っているからである。
ここではその問題には触れないけど、これに対するわたしの考えはそのうち出てきます。

駅へ行ったあと、市内というか村内というか、そういうところにある博物館を観に行くことにした。
たいして遠いわけじゃあるまいと、足こぎ式タクシーをつかまえたら、運転手は博物館への道を知らなかった。
地図を見せて進行。
それでもこの運転手が漢族であっただけマシで、漢字のわからないウイグルの運転手をつかまえた日には地図を見せてもわからない。

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博物館方向へ進むとしだいに樹木が多くなる。
ポプラの並木、ムギ畑や野菜畑など、うれしくなる風景である。
博物館では大男のウイグル人が番をしていて、料金12元をを払うと建物のカギを開けてくれる。
建物は素朴すぎるようなもので、4つに分かれており、敦煌でみたような壁画の模写絵などが並んでいた。
展示品はたかが知れている。
しかしこれまで見てきた各地の博物館に比べれば、こんな田舎でガンバっているほうかもしれない。

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発展した現在のクチャには新しい博物館(亀茲博物館)が出来ており、わたしが見た博物館はどこにあったのかわからなくなってしまった。
“博物館”で検索すると「庫車王府」というのがよく見つかるけど、これもわたしが行ったころにはなく、たぶん郷土の特産や民芸を紹介するテーマパークらしい。
中国政府は新疆全体の観光地化に熱心で、こうしたテーマパークは各地にある。

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つぎになんとかいうイスラム寺院を見にいこうとしたら、タクシーはイスラム教徒の町にまぎれこんでしまった。
クチャのはずれに庫車河という河が流れており、それにかかる橋の周辺がそれで、周りを見ると漢族なんかひとりもいない、ウイグル人だけの異様な雰囲気の場所である。
異国情緒のありすぎる町に興味をもったわたしは、タクシーを下りて、しばしそのへんを徘徊した。
こんなところを漢族と間違えられかねない日本人がうろうろするなんて、あとで考えるとメクラ蛇におじずだったようだ。
しかしそんなに恐れるようなこともなかった。
日本人かと話しかけてきた老人もいて、トキオ、オオサカ、ナガサキなどという言葉を知っていた。

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ヤバかったのはこのあとだ。
橋の上はウイグル人で混雑しており、カメラをかまえたわたしは向こうから橋を渡ってくる美しいウイグルの娘2人連れを発見。
顔はそれほど似ていないけど、かたほうはハリウッド女優のだれかに似ていて、おそろいの柄のワンピースだったから姉妹かもしれない。
写真を撮らせて下さいというと、美しいほうの娘は飛び上がった。
その動転ぶりは半端ではなく、わたしのほうがビックリしてしまったくらいだ。
おそらく男女席を同じうせずのイスラムで育って、いきなり町中で見ず知らずの男に話しかけられたことが生まれて初めての体験だったのだろう。
そんな箱入り処女に声をかけるなんて、ヘタすればわたしは、まわりの男たちにぶん殴られてもおかしくない。

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彼女はあわてて逃げていってしまい、そのくせいなくなったと思ったらまた人混みのなかで出くわして、どうもこれみよがしにわたしの周辺をうろうろしている感じだったから、あとで気を取り直して、やはり写真を撮ってもらいたいらしかった。
しかしまわりの男たちの冷たい視線を感じて、今度はわたしのほうがドギマギしてしまい、絞り調整を忘れた不満のある写真をしか撮れなかった。
かろうじて撮った写真だけど、残念ながらこの写真を手渡すすべがない。
漢字の読み書きのできないウイグル娘に住所を訊くのははばかれたからである。

この橋はどこにあったのかと地図を調べてみたけど、大きな河のくせに水の流れていない涸れ河なので衛星写真で見つけにくい。
けっきょくいまではどこにあったのかわからなくなってしまった。

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庫車河の橋から、こんどは馬車に乗ってもどることにした。
馬車といっても皇居で新任大使の挨拶のときに使うような優雅なものではなく、ウマに引かせたただの荷車である。
途中で木立のなかの静かな場所にあるモスクを見た。
これがクチャ大寺という有名なモスクだったようだけど、中国にしては珍しくクワやほかの木の古木があって、近くには墓地もあったから、まるっきり日本の田舎にある小さな寺院を思わせた。
わたしはシルクロードを旅して、ウイグルも日本人も農耕民族だなと思うようになったけど、農耕民族にはほかにも日本と共通する要素があると確信した。

このまま馬車でホテルまでもどるつもりだったけど、馬車というものははたから見ているぶんには牧歌的だけど、振動がものすごいことに気がついた。
ワープロが壊れてはたまらないのでタクシーに乗り換えることにした。
馬方のウイグルの若者とは意気統合したばかりだったのに残念。

ホテルにもどるためにタクシーに乗ると、運転手があちこち観光をしないかと誘う。
見るとけっこうきれいなシャレードで、運転手も太り気味のイタリア人みたいに陽気そうな男性である。
どうせそのつもりでクチャに宿泊したのだし、明日まで考えてみるつもりで、明日の朝ホテルを引っ越すけど9時に来られるかといっておいた。

ホテルにもどると、フロントで長髪の若者が宿泊手続きをしていた。
彼のかたわらにあったガイドブックをちらりとのぞいて日本人であることがわかった。
なかなかハンサムで、ジーンズにTシャツという旅スタイル。
このあと彼としばらく話をしてみると、明日にはクチャを立って、カシュガルからパキスタン経由でヨーロッパへ向かうつもりだという。
このころはまだヒッピー精神衰えずという時代だったから、彼もそうやって貧乏旅行で世界を見てまわろうという若者のひとりなのだろう。
現在の若者とつい比較したくなってしまう。

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もうあまり遠っ走りする気もなく、ふらふらとホテルの近くを散策した。
ホテルから徒歩で10分も行くと、ムギ畑、野菜畑、そしてポプラの並木などのある、うるわしい田園風景がひろがっていた。
ムギ畑には雑草が多く、日本よりずっとおおらかに育てられているようである。
途中でドドメ(桑の実)を摘んでいるウイグルのおばさんたちを見た。
このあたりのドドメには黒く熟すものと白く熟すものがある。
ヒツジやロバはいくらでもいたけど、イヌやネコを飼っている家はほとんどないようだった。

部屋では太ったウイグル娘のルイヤンゲーがわたしに迫る。
彼女の弟の車で観光に行かないかというのである。
先のタクシーが300元なら、こちらは200元でいいという。
そんなこといわれても、もう手遅れだわサ。

早めに寝て、目をさましたのが夜中の1時ごろ。
レバーをひねってお湯が出ることがわかったのでシャワーを浴びることにした。
これにはちょいとひと苦労がいった。
なにしろ汚い床にスリッパもないし、お湯だって最期まで出るとはかぎらない。
ぱっぱっと頭を洗い、顔を洗い、わきの下あたりまで行ったとき、やはりお湯は出なくなった。
それより先はまあ、冷水でもかまわなかったけど。

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夜中に窓から外を見ると、白楊(ポプラ)の葉がさらさらとゆれており、花のような白いものがあちこちに見える。
あんな大きな花は咲かないはずだけどと思い、双眼鏡を持ち出すと、これは葉の裏側が闇のなかで白く輝いていたのだった。
白楊という名の由来がよくわかった。

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