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2024年8月11日 (日)

中国の旅/カシュガル

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カシュガルは中国語(漢字)で書くと“喀什”で、それを中国読みするとカーシーということになる。
でもここではウィキペディアにも載っているカシュガルで行こう。
なんでカシュガルなのかといわれれば、南疆鉄道の終点だったからだ。
新疆にはほかにも行ってみたいところはたくさんあったけど、鉄道旅のわたしにはカシュガルより先には行きようがない。
ホータンまで鉄道が延長されるのは、このときより11年後のことである。

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ウィキでカシュガルについて調べると、『古くからシルクロードの要衝として、またイスラムの拠点都市としても発展』とある。
しかし名所旧跡に興味のないわたしのこと、要衝も拠点都市もどうでもよくて、しいて見たいものを挙げればバザールがある。
わたしはこの旅より12年後にトルコのイスタンブールを旅して、本場のバザールというものを堪能してきたけど、このときはまだ前回のトルファンでそれらしきものを見たっきり。
カシュガルのバザールはもっとずっと規模が大きいと聞いていたから、それを見たいという好奇心がわたしの衝動になっていたのだ。
のんびりゆったりを愛するわたしは、カシュガルに4泊を予定していた。

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カシュガルも当然ながら、ここ20年ほどのあいだに大変貌を遂げていた。
この2枚はネットで見つけた、最近のカシュガル市内の「高台民居」という名所。
わたしが行ったころは高台にある古い町並みだったから、坂道を登るのがおっくうで見逃してしまったけど、その後その古さを逆手にとって、西安の回族居住区のような観光名所にしてしまったようで、中国政府もなかなか頭がいい。
最近のカシュガルについては、2021年にわたしの中国人の知り合いが送ってきた写真もあるので紹介する。

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この4枚組の写真は知り合いのもので、上は上段左から時計まわりに、カシュガル市の遠景、テレビ塔、夜になるとテレビ塔は色が変わるらしい、そして「高台民居」の下の公園。
下も上段左から時計まわりに、「高台民居」の下のウイグルの少女ふたり、関口知宏クンが喜びそうな楽器屋さん、新しいタイプの宿屋、コカコーラやペプシの自販機のまえの漢族観光客。
カシュガルもいまや大都会で、わたしが見たころとは大幅にようすが変わっている。

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カシュガル駅前ではタクシーが行列をしていたた。
ここでもいちばん多いのは日本のシャレードである。
何人かの男に呼びとめられて、そのうちの1人に返事をすると、カシュガル賓館まで10元で行くという。
メーターもついてないし、タクシー表示のない車だったから白タクだけど、安いのだから文句はいえない。
運転手は漢族で、たちまち車内で観光に行かないかと勧誘が始まった。
しかしまだなんの予定もしてないし、まず町をじっくり見るつもりで断った。
彼は、カシュガル賓館か、あれは町から遠いからよくないよという。 
自転車を借りるつもりだからいいのさと、わたしは答える。   
クチャでは行き当たりばったりでロクでもないホテルに飛び込んでしまったから、今度は最初から「地球の歩き方」に出ていた上等そうなホテルにしたのである。

このホテルはいまでもあるのかと調べてみたら、ホテル案内には引っかからなかったから、とっくに近代的なホテルに吸収合併でもされて、建て替えられてしまったのかも知れない。
現在のカシュガルには外資系を含めて、近代的な高層ホテルが乱立しているので、もはや場所もわからなくなってしまった。

カシュガル賓館のフロントでいちばんエラそうなのは清楚な感じの若い娘で、あとで聞いたところでは彼女は漢族、ほかの従業員はほとんどウイグルらしい。
こういう仕組みに対して、外野の日本人の中には反感を持つものもいるかも知れないけど、まだウイグルには近代的ホテルの経営方法はわかってなかっただろう。
服務員の娘たちはおそろいのアテレス(ウイグルを象徴する矢がすりの模様)の制服を着ていた。

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ホテルは2階と3階の4つほどの建物に分かれており、どことなくイスラム様式を感じさせる建物で、敷地内にはバーやレストラン、土産もの店などもあり、庭は広く、町から遠いだけあって静かである。
いちばん高い部屋は1200元なんてものもあるらしいけど、わたしは220元の安い部屋にしてもらった。
わたしの部屋は、悪くはないけど、けっして良くもなかった。
お湯は24時間使えるということなのに、赤茶けた汚水の洗礼を受けてから初めてまともに出た。
しかもシャワーのホースは切れかかっていた。
ベッドもわるくないけど、砂でざらざらする。
しかし部屋の灯かりが明るいのは、夜中にワープロを打つわたしにはありがたい。

時刻はもう21時ごろだったけど、まだ明るかったので、部屋に荷物を置くやいなや町へ飛び出した。
このときのタクシーの運転手はポール・マッカートニーに似たチョビ髭のおとなしそうな若者で、ギルギス人だという。
タクシーのなかで沈黙を保つのに耐えられないわたしは、いつも話のきっかけに運転手の出自を尋ねることにしてるんだけど、新疆ではいろいろな民族が運転手をしているのに気がつかされる。
このときはそれ以上話しのきっかけをつかめず、ビートルズを知ってますかなどとアホな会話をした。

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カシュガルの町のまん中に大きな広場(こういう広場はたいてい人民広場という名称である)があり、そこに巨大な毛沢東の像が立っていた。
いったいウイグル人たちは毛沢東という人間を知っているのだろうか。
この像はいまでもあるのかと調べてみた。
あまり旅行ガイドなどでは紹介されてないけど、中国のウィキペディア「百度」によるといまでもあるようだ。
真上から見るのでわかりにくいけど、3枚並べたうちのいちばん上は衛星写真によるその画像。
地図で見ると毛沢東の像に重なって道路ができているのに、衛星写真ではその道路が見えないから、地下に自動車道路ができているのかも知れない。

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毛沢東の像から500メートルほどはなれた場所に、カシュガルでいちばん大きなエイティガールモスクがある。
1980年のNHK「シルクロード」にも出てきたし、関口知宏クンの「鉄道大紀行」ではこのモスクのまえから実況中継をしていた。
エイティガールモスクについてまたあとで書く。

晩メシがまだだったから、モスクの近くの食堂に入って、烤羊肉(串焼き肉)を食べていくことにした。
そのときついビールを頼んでしまった。
主人が無愛想な顔をして、ないという。
そういうときには近くの酒屋で買ってくるか借りてくるのが普通だけど、まわりを見たらビールを飲んでいる者がひとりもおらず、みんな土瓶に入れたお茶を飲んでいるではないか。
それで気がついたけど、イスラムは酒を飲まないのだ(少なくても昼間っから、モスクのすぐわきでは)。
客はウイグル人ばかりだったけど、みんな唖然としている日本人を見て、なんだか冷たい雰囲気である。
おそらくわたしのことを退廃国家から来た人間以下のクズと思っていたのだろう。
こちらが日本人とわかれば、まずイヤな思いをすることはなかったけど、このときほど呑ん兵衛にとって、悲惨な国に来たと思ったことはなかった。

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この日は人民広場とエイティガールモスクを確認しただけで引き上げた。
帰りのタクシーは漢族の若者で、わたしが4元とハンパしかないよというと、それでいいやという。
タクシーに乗ってばかりいるみたいだけど、4元は日本円で50円ぐらいである。
市内を走行中にウイグルの女性がタクシー運転手をしているのも見た。
民族衣装のままスクーターに乗る女性もいる。
功罪あわせて、カシュガルに中国人の手になる近代化の波が押し寄せているようだった。

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部屋で寝ながら考えた。
といってもこれは旅をしているときではなく、現在の、ウクライナ戦争が始まり、世界が2極化されている2024年に考えたことなんだけど、わたしは不思議に思う。
歴史や事物に興味を持ってシルクロードを旅した日本人は多いはずである。
そうした人たちは中国がどんな国なのか、自分の目で確かめてきたはずではないか。
じっさいウイグルが抑圧されているかどうかも自分の目で見てきたんじゃないか。
台湾有事かなんだか知らないけど、日本がしきりに中国との紛争を煽り立てている現在、どうして中国にもいいところがあると発言する人がいないのだろう。
わたしの旅は名所旧跡には関心を持たず、そのへんの路地や農村ばかり見て歩いている。
のんべんだらりんとした下らない旅行だと思われるかも知れないけど、それでもわたしは中国という国について、ひとつの信念を持つに至った。
わたしの旅が無意味なものだったとは思わない。

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