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2024年9月 9日 (月)

中国の旅/ハイルホシー

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外国をひとり旅していると疲れることがある。
肉体的な疲れではなく、たとえば土産もの屋での値段交渉、なんとかしてこちらをごまかそうとするタクシー運転手や、ピンハネしようとするホテルの両替などとの闘いだ。
こういうことをするのは圧倒的に漢族が多い。
ウイグルはまだ素朴で、あまり外国人とちょくせつ対峙する業種についてないせいもあるけど、こんなことばかり続くと、わたしも暴動を起こしたくなってしまう。

交河故城を見学したあと、わたしはトルファン賓館にもどった。
このあとロバ馬車で緑洲賓館というホテルに行ってみることにした。
ここにはCITS(旅行会社=列車の乗車券販売もしている)があると聞いたので、ヒマつぶしに自分で列車の料金を調べておこうと思ったのである。

たいした距離でもないから往復5元にせいよと、人の好さそうなロバ馬車のおじいさんに掛け合う。
小学生くらいの少年があとから走ってきて同乗した。
じっさいには緑洲賓館で時間をくったのと、道路が工事中で帰りは別の道を使うことになったので、わたしはこりゃ10元は仕方ないなと思った。
ところが御者と少年は口をそろえて20元だという。
じつに人の好そうな顔をしている御者のおじいさんだけど、こうなると真剣である。
トルファン賓館の門前で、ふざけるな、10元だとすったもんだしていると、Jhon's CAFEからマコトちゃんが飛び出してきて間に入ってくれたので、けっきょく10元ですんだ。
このおじいさんはウイグルだったけど、いったい誰だ、日本人はいいカモだと教えたのは。
いや、疲れる。

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とうとう用意してあったフィルムが底をついた。
ホテルの売店で尋ねると1本50元以上のことをいう。
日本ではフィルムなんてタダの景品だというと、いくらなら買いますかと計算機を持ち出す。
わたしは疲れた。

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20時ごろ、マコトちゃんとバザールへナイフを見に行く。
カシュガルで買ったものは駅で没収されてしまったんだよというと、没収されないためには駅で身につけていればいいというので、もういちど安いものがあったら考えてみようかということにしたのである。
マコトちゃんの友人だという店に行ってみた。
素性のいいナイフが120元だという。
そんな高いものは買えないとゴタゴタいいあって、ああ、またしてもわたしは疲れた。

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翌朝は6時半ごろいったん目覚め、1時間ほどワープロを打ってまた寝てしまい、2度目に目覚めたのは9時すこし前だった。
シャワーを浴びたあと買い置きで食事をすます。
この日はトルファン出立である。
一部の人間のがめつさには閉口しているけど、それでも旅する楽しさはそれを帳消しにしてあまりある。
わたしは気持ちよくこの町を離れることにした。

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さて列車だけど、わたしがホテルに依頼したのは17時台に出る344次か190次というやつ。
とりあえず高いほうというわけで、手続き料を含めて650元の予約金をとられた。
CITSに問い合わせたときに、料金が異なるのは一方の列車が空調完備の豪華車であるからということがわかった。
ただどっちが豪華車であるのかは、ホテルで見た時刻表とCITSの説明が逆だったようで、よくわからない。
高いほうがだいたい500元前後、安いほうが400元くらいだろうとのこと。
フロントにいた美貌の小姐が正直に釣り銭を返してくれればいいが。

この小姐にかぎらず、中国のホテルでは対応した当事者が勝手に料金や手数料を決めているんじゃないかと思うことがよくある。
たとえばホテルによっては日本円の両替を依頼すると、フロントにいた娘がこれこれしかじかの手数料でよければやってあげますという。
交渉次第で額が変わるところをみると、ホテルは関係なしにフロント係が自分の判断でやっているようだから、手数料はフロント係のものになるのだろう。
つまりホテルの従業員がホテル内で勝手に商売をしていることになるけど、ホテルや上司はこれを把握しているのだろうか。
たいていの場合、領収書をくれるわけでもないので不信感がつのる一方である。

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11時近くになりホテルをチェックアウト。
列車の切符はOKですかと尋ねると、前日の美女とは異なる娘が、手配はしてありますから駅で受け取って下さいという。
予約金からオーバーした分を返してくれたけど、正確なオーバー金がいくらかわからないし、また100元でタクシーを斡旋しますなどと始まって、うんざり。

なんとか切符の件がかたづいて、ふらりと町へ出ようとしたら、網をはっていたマコトちゃんに引っかかってしまった。
40元で駅まで送りますといわれ、ま、いいだろうとわたし。
列車は18時ごろだから、15時半に待ち合わせ。

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時間がありすぎても行くところがないので、ひとつ交河故城近くの素朴な村へでも行ってみるかと、バイクタクシーをチャーターした。
とことこ走ってダム湖の見えるあたりで停車し、写真を撮るために湖のほとりまで歩いてみた。
想像したとおり素朴で、日本の田舎を感じさせる村で、村人がにこやかに挨拶する。
湖の水ぎわまで歩いてみると、この日も子供たちが水浴しているのが見えた。

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ふたたびとことこ走って帰路につく。
途中でウイグルの運転手がなにかいいだして、さっぱりわからないけど、市内まで行きたくないというのようなので、市内に入る手前で下りてしまった。
ここにも日本語堪能のウイグル人タクシーが網を張っていて、市内まで1元でいいですという。
1元は安いと思ったら、車のなかでまた観光の勧誘が始まった。
トルファンには地球の中心がありますとかいっていたけど、時間もないので断固拒否。

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顔なじみのヤコブが運転する軽バンで駅へ。
駅までは一般道路を走り、料金所を過ぎたところで有料道路にのる。
車はウルムチ方向へ、往路とは異なる道をひた走る。
わたしの知っている道、今回トルファンに到着したとき走った道は、洪水で崩壊したままなので、遠まわりでもこちらを使うのだという。
そういえばトルファンに到着したとき、駅にはわたしたちのバス以外にも、市内に行くはずの車がたくさん停まっていたのに、わたしたちの車が出発しても、前後を走る車がまったくいなかった。
理由は、ほかの車はみんな迂回路を走り、崩壊した道をムリやり走ったのはわたしたちのポンコツだけだったということらしい。

トルファン駅前ビルの2階にあるCITSで無事に切符を受け取った。
今回は甘粛省の武威で途中下車する予定である。
ここは前回の旅で、どうしてここだけこんなに花が咲いているのだろうと不思議に思った烏(カラスという字)鞘峠から近いので、それを自分の目でじっくり確認してみるつもりだった。
列車は190次で軟臥の下段だというから、ほかの客が共用のソファ代わりにしている場合が多く、あまりのんびりできないかも。

暑いので、さっさとマコトちゃんらと別れて駅の待合室に入ってしまった。
待合室で切符を点検した駅員が、まだ発車まで30分以上あるはずなのに、さっさと乗車しなさい、あなたの列車はあれですという。
彼女はトランシーバーでホームの駅員に連絡をとり始めた。
ひとり乗り遅れそうな客を発見した、出発をちょっと待てという感じである。
わたしはあわててホームへ向かったけど、出発はやはり30分もあとだった。
またナイフを没収されないよう、わたしはそれをポケットにしのばせていたのに、トルファン駅のX線検査機は壊れていた。
中国人たちは荷物を開けさせられてチェックされていたけど、わたしと、たまたまあとからやってきた白人バックパッカーは、ようやくきちんと整理してパンパンにつめこんだ荷物を、うっかり開けるとまたあとが大変だと思ったらしく、ノーチェックでOKだった。

ひょっとすると空調完備の豪華列車かと思ったのもつかの間、190次はおそろしく汚い、囚人護送車のような暗くて汚い列車であった。
どこから侵入してくるのか、窒息しそうにケムい個室に座って発車を待っているあいだ、その豪華列車というのがとなりに停車した。
こうなるとピンハネする金額が大きいというので、わざと安いほうの列車の切符を手配されたのかも知れない。
なんだっていいやとわたしもヤケになる。
嬉しいのは、どうやら個室がわたしひとりの貸し切りらしいことである。
このまま武威までひとりでいくか、美人姉妹でも同室になるといいけど。

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18時すぎの発車と同時に、大きな疲労感を感じてぐたーっと横になる。
景色の写真を撮ろうと思っても、この列車ではムリかもしれない。
なにしろどの窓も古びてサビついたようになっており、金輪際開こうとしない。
まあ、砂漠の写真はもうどうでもいいか。
21時半ごろ太陽は地平線にかかった。
まだまだ明るいけど、列車はどこか海と群島を思わせる赤い砂漠をゆく。
暗くなってから停車した駅で、ホームに下りて空を見上げてみると、まあまあきれいな星空だった。
列車は今夜中に新疆ウイグル自治区の国境を越えて、ハミを過ぎて柳園に至れば、そこはシルクロードであっても、そろそろ漢族の勢力圏である。
さらば、ウイグルよ、ハイルホシー(ウイグル語で「さようなら」)。

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