ボケる
馬鹿だ、馬鹿だとおっしゃるな、この馬鹿が。
昨日はわたしはボケが高じて、まっ昼間に徘徊するはめになった。
わたしのところに高齢者免許更新の知らせが来ている。
高齢者であるから、わたしのような老いを知らない鮮烈老人でさえ、いろいろメンドくさい講習を受けなければならない。
行ったことのない近くの自動車教習所が講習会場になるらしい。
ひとつ自転車でその教習所を下見に行ってこようと、さいわい雨がやんだので出かけてみた。
地図をプリントしておいたので、目的地はすぐにわかった。
帰りは、もっと近道があるかも知れないから、別の道を通って帰ることにした。
これがそもそもの間違いの始まり。
わたしは方向感覚はいいほうなので、適当に自宅方向に進めば、どこかで知った道に出るだろうと思った。
しかしあいにく曇り空で、指針となるはずの太陽の位置がわからない。
なんとなく夢を見ているように頭がぼうっとしている。
住宅街の向こうにこんもりとした森が見える。
あれは近所の国立病院ではないかと、そっちへ行ってみたら、将軍塚という見たことのない高級住宅地に出てしまった。
もうこうなると芥川龍之介の「トロッコ」みたい。
夢遊病者のようにひたすらペダルをこぐ。
オシッコがしたくなるころ、所沢の駅前のでっかいショッピングモールが見えた。
やむを得ずそこでトイレを借りることにして、店内にはいってみると、いやもう、大変なにぎわいで、それなのにみんな宇宙人のように白々しい。
わたしひとりが最後の1匹の絶滅危惧種になったみたいで、雨が降ってきたらほんとうに途方に暮れるところだった。
さいわい雨の心配はなさそう。
ふたたびペダルをこいでいくと、どこかで見たような建物があった。
これって、このサイクリングの最初の目的地の自動車教習所じゃないか。
うわあ、ボケてる!
街を抜け、住宅のあいだを抜け、畑のなかを抜け、線路にぶつかり、ただもう当てもなくひたすらペダルをこぎ続ける。
途中の住宅街でイヌの散歩をしていた女の人に、わたしがよくサイクリングする川の方向を尋ねてみた。
「水無川」という川はこのへんにありませんかと訊くと、「空堀川」でしょうといわれる。
ああ、ボケてる、ボケてるよ!
空堀川のサイクリング道路に出れば、ここは以前に走ったことのある道だ。
ようやく家にたどりついて、いったいナンダ、今日の純文学的サイクリングはと思う。
ボケて徘徊するというのはこういうことなんだろうな。
免許証の返納を考えたほうがいいかも知れない。
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