ミツバチのささやき
さあ、また旅に出よう。
無一文で、足もへなへなのじいさんだけど、今度はスペインに行くのだ。
ええっと驚いたアナタ。
いいや、わたしがいうのは現在の旅じゃない。
行くのは時空を超えた1960年代のスペインだ。
そう、わたしのお得意のバーチャル旅行というやつだよ。
じつは今日は録画したスペイン映画の「ミツバチのささやき」という映画をじっくり観たんだけどね。
映画のストーリーは独裁者フランコと、抵抗する市民たちの内戦(ヘミングウェイの小説やキャパの写真で有名だ)が終わった直後の、スペインの片田舎を舞台にしているのだそうだ。
“のだそうだ”というのは、わたしはこの映画の裏事情をよく知らなかったし、映画にも派手な戦争場面はひとつも出て来ないからだ。
でもそんなことはたいして重要じゃない。
この映画の眼目は別にあり、わたしにとってその別のところにしか興味がないのだから。
これは1973年公開の映画で、すべて当時のスペインの田舎で現地ロケしたらしいから、背景は50年まえのスペインそのままといっていいだろう。
広大な丘陵地が広がる田園風景や、そこで遊ぶ子供たち、汽車が到着する素朴な駅のたたずまいなどに、わたしは無限のノスタルジーを感じてしまう。
わたしは過去に、自分の旅で似たような景色をたくさん見た。
中国に行ったとき同じツアーに参加していた絵描きさんが、江南のシックイを塗った民家はスペインの家に似ているといっていた。
トルコに行ったときは、地の果てまで続くような丘陵地帯を観た。
わたしはバスや列車の窓にしがみついて、そんな景色をあかず眺めていたものだ。
「ミツバチのささやき」については、最初は美人の人妻が不倫する話かと思ったけど、そうでもないようだし、主人公の少女が戦場から逃走してきた兵士と、巡回映画館で観たフランケンシュタインを重ねあわせるというのも、ちと無理がある。
ありていにいえば、素晴らしいのは映画の背景しかない。
ほかの部分のもやもや感は、内戦で傷ついたスペイン人の心情を象徴するものだと強引に解釈しておけば、それでもいい詩を読んだような余韻が残る。
それしかないけど、それだけで十分だった。
バーチャル旅行というのは便利なもので、芭蕉はまだ見ぬ土地にあこがれて、あこがれ途中に死んだけど、現在はインターネットの時代で、情報は溢れているのだから、部屋にいながら、ベッドに横たわりながら、世界を旅できるのだ。
わたしが幸せな時代の旅人であることは疑いを入れない。
ところでトランプさんと日鉄副会長の面談はすんだのか。
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