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2025年3月29日 (土)

ちりめん本

NHKのBSで「幻の木版画・ちりめん本」という番組を観た。
これは明治時代に、ちりめん和紙(和紙にちりめんのような細かい凸凹をつけたもの)に浮世絵の技法で挿絵をつけた草子で、その出版のいきさつや制作工程がひじょうに興味深かった。
明治時代に長谷川武次郎という出版経営者が、英語の教科書にするつもりで、チェンバレンやヘボン、フローレンツといった当時のお雇い外国人に、日本の桃太郎やかぐや姫などの外国語訳を依頼して出版したものだそうだ。
最初はふつうの和紙に印刷したもので、あまり売れなかったけど、ちりめん和紙に印刷すると、日本より外国で評判がよく、日本の土産としてたくさん売れたそうである。

番組ではいまでも保存されていた板木を使って、桃太郎のちりめん本を再現してみせる。
見ているだけで、たいそう手間のかかる製本技術であることがわかるけど、ただひとつに気になったのは、そんな手間のかかる本を、どうして出版者の武次郎は作ろうという気になったのかということだ。
番組のなかでは、明治政府が民間の教科書はすべて検閲が必要という政令を出したからという説明があったけど、ふつうの紙は禁止で、ちりめんならいいという説明になってない。
そのへんが気になっただけで、歴史と芸術に関わるものが、3度のメシより好きなわたしにはなかなかおもしろい番組だった。

これを観終わってちょっと残念に思ったことがある。
わたしは司馬遼太郎の「街道をゆく」が週刊朝日に連載のころからのファンで、これが文庫本になると迷うことなく飛びついた。
最初のころのこの文庫本は、エンボス加工という、ちりめん和紙に似たカバーがついていた。
途中からこのカバーは廃止されてしまったから、いまでは本屋で買える「街道をゆく」の文庫本は、すべて写真が印刷されたありきたりのカバーになっている。
わたしは本というものは中身さえ読めればいい主義で、古本に出していくらかにしようというマメな性格ではないから、やがてエンボス・カバーのついた本も、引越しと終活作業の一環で、ひとつ残らず可燃ゴミとして処分してしてしまった。
今回「ちりめん本」というテレビ番組を観て、モッタイナイことをしたと思う。
ちりめん和紙に比べれば、現在のもっと安い技術によるものだろうけど、2度と買えないと思うと、エンボス加工のカバーは無性に名残り惜しい。

ひょっとするとネットのオークションに出品されてないかと検索してみたら、全43巻で8250円というのが見つかった。
これの1巻から16巻まではエンボス・カバーがついているみたいだけど、2度と買えないにしては安い。
愛着のある文庫だけに、惜しいと思うのはわたしだけか。

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