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2025年6月 2日 (月)

上海/和平飯店ジャズ

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過去に和平飯店には2回ばかり行ったことがある。
高いことは高いけど、吉祥寺のライブハウスに行ったって、飲み物以外にテーブルチャージを取られるし、それと比べて特別に高いとは思わなかった。
だから今回もミーハーおばさんを連れて、ためらわずに行ってみた。
過去に行ったというのは1994年のことで、そのときのことはブログに書いたことがあるから、またリンクを張っておく。

1994年というと、わたしが最後に行ってから生まれた子供が、もういいおとなになってるはずだから、和平飯店といってもなんのことかわからない人も増えているだろう。
上海には租界時代の石造りの建物が並んだ外灘(わいたん)という通りがある。
英語名をバンドといって、戦前のことだから、この通りのおかげで、上海は日本の丸の内をもしのぐ、アジア最大の都市といわれた。
欧米列強の植民地主義を象徴する通りでもあったわけだ。

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新中国になってから、中国政府が望んだかどうか知らないけど、この通りは租界時代をしのばせるということで、レトロな感覚に満ちた上海最大の名物通りになってしまった。
石造りの建物のなかでもひときわ有名なのが、租界時代にサッスーン財閥が経営していたピースホテル(和平飯店)である。
ここでは宗主国の欧米人のために夜な夜なジャズが演奏され、それがそのまま伝説になり、いまでも往時をしのぶ観光客のために、古いスタイルのジャズが演奏され続けているのである。
あまり有名じゃないけど、わたしだって団塊の世代の生き残りで、若いころは新宿代々木あたりのジャズ喫茶に入りびたったものだ。
だからというより、ミーハーおばさんに変わった体験をさせてあげたくて、和平飯店にはなんとしても行ってみたかった。

この晩はホテルでタクシーを呼んでもらい、外灘まで乗りつけた。
錦江飯店から外灘までなら、この時間としてはまあまあ遠距離だから、タクシーもいやな顔をしないだろうと、わたしはこういうことにも気を使うのである。
ミーハーおばさんは交通カードが使えるかどうか心配していたけど、このときだけはちゃんとカードが使えた。

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夜の外灘は建物がライトアップされ、道路をはさんで黄浦江と、その向こうに煌々と照らされた浦東地区の高層ビルが立ち並ぶから、ミーハーおばさんでもため息をつくほど美しい。
夜の8時ごろで、さすがにこの通りは中国人、欧米人の観光客でごったがえしていた。

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アールデコ調の豪華な和平飯店の1階ロビーで、黒服の支配人に呼び止められた。
なんとかかんとかといわれたけど、たぶん、演奏を聴くにはテーブルチャージがかかりますけどよろしいですか、ぐらいのことをいったのだろう。
そんなに高くはないと思っていたから、かまわないよと、かって知ったる1階のバーに(無謀にも)飛び込んでしまった。
わたしのような俗物は、ホテルにとって飛んで火にいる夏の虫だったわけだ。

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以前よりいくらかスペースが狭くなっていたけど、さすがに本格的な西欧風の高級バーである。
わたしはハリウッドスターにでもなった気分で、意気揚々とテーブルについた。
また黒服が注文をうかがいに来た。
メニューをよく見もしないでワインをボトルで注文したわたしは、あとでメニューをよく見て冷や汗をかいた。
そのとき持っていた金で足りるだろうか。
しかしわたしはすぐに、冥土の土産のやけっぱち精神を思い出した。
この精神にこわいものはないのだ。

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この晩の演奏は、管楽器が3本と、ピアノ、ベース、ドラムスに、女性歌手ひとりつきの編成で、演奏しているのはスタンダードナンバーがほとんど。
ミーハーおばさんが、この曲は聴いたことがあるねという。
日本の歌謡曲だったみたいだけど、「北国の春」ではなかったから、わたしにも名前がわからない。

上海に行ったら和平飯店のジャズは聴かなくちゃと思っているアナタ。
あなたがホリエモンや前澤友作くんのような一代成金ならともかく、明日の米代を心配しなければならない貧乏人なら、むやみな見栄を張るのはやめたほうがよい。
いまの和平飯店は田舎から出てきたスノッブを相手にする、そのほう専門の観光バーに変貌していて、ジャズ演奏も雰囲気を楽しむため以外にぜんぜん価値のないものである。
水割り2杯とカクテルが3500円で飲めたのは、20年以上も前のことだったのだ。

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飲んでいるワインは中国産の「ワイルドポニー」という銘柄で、おいしかったけど、わたしはむかし飲んだ中国産ワインを思い出す。
まだ中国にワインや生ビールのような洋風の酒が一般的でなかったころで、それはハチハニーワインのように甘ったるくて、とても飲めたものではなかった。
ワインの目利きではないわたしは、それ以上いわないものの、そんな中国のワインがいまでは高級ホテルに備えてもおかしくないくらい上質なものになった。
中国は日本と張り合うような愚は犯さないけど、着実に進歩しているようだった。

ミーハーおばさんもそれほど飲むわけではないから、このワインは半分以上が残ってしまった。
わたしはボトルごとそれを持ち帰った。
中国では料理にしろ飲み物にしろ、余ったものを持ち帰るのは恥ずかしいことではないのである。
料金はクレジットカードで支払った。
もち、旅なれた風をよそおって。

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