上海/雑技団
ある朝、起きると雨だった。
これで上海に来てから2度目の雨だ。
こうなると出かけるところは限られる。
屋外を歩きまわるなんてのはもってのほかで、それではどこに行くか。
上海には雑技団という名のサーカスがある。
人民に娯楽を与えなければならないということで、同じようなものはロシアのモスクワにもある。
わたしは幸わせなことに、過去にその両方を見るという幸運に浴した。
気のドクなミーハーおばさんはそうではないので、わたしたちは地下鉄で雑技団の常設会場のある「上海馬戯城」という駅に向かった。
この駅も行きつけの陝西南路駅から、地下鉄で1本だ。
上海馬戯城で地上に出てみると、特徴的なサーカス団の建物はすぐにわかった。
切符売り場に行って、女の子にいきなりA席が欲しいんだけど言ってみた。
ミーハーおばさんがとなりから高いんでしょうと心配顔でいう。
あいかわらずケチな人である。
じっさいに高かった。
ひとり日本円で1万円ぐらいする。
あわてて対不起(=ごめんなさい)と謝って、それでも7千円ぐらいのC席に変えてもらった。
女の子は苦笑しながら変えてくれた。
考えてみると、以前に観たのは2004年のことで、そのときはツアー料金に含まれていたのだ。
でなくてもあいだに20年がはさまると、この国では諸事おどろくほど値上がりする。
あいにくこの日は昼の部がないそうで、19時半の開演まで時間がありすぎるから、いったんホテルへもどることにした。
交通カードが地下鉄しか使えそうもないので、せっせと利用しないとチャージした分を使いきれないけど、地下鉄だけではたかが知れている。
ホテルにもどっても寝るくらいしかやることはない。
また2時間ほど寝て、オシッコで起こされて、ゆるゆると出かける。
30分前までに会場に来てくれといわれていたから、雨まじりの天気の中、ホテルの傘を借りて出かけた。
この傘には錦江飯店の名前が入っているから、中国人は金持ち日本人と、一目置くかと思ったのに、そういうことはなかった。
雑技団の建物のロビーで、時間つぶしにWi-Fiを使ってみた。
錦江飯店ではつながらないことが多かったのに、ここではLINEまですいすいとつながった(日本にいる知り合いにメールを送っておいた)。
開演15分まえに指定された扉に行ってみると、係りがいて、わたしたちの席に案内してくれた。
A席なんか買う必要はなかった。
舞台を横から見ることになるけど、C席でもいちばん前で、スリルも演技者との距離も、VIP席で見るのと大差なかったからである。
演技開始が迫ると、どこにこんなにいたんだというくらい、欧米人の団体がぞろぞろ入ってきて、VIP席やA席をうめた。
演技場のステージの背後に、瀑布のまえに枝をはり出した赤い紅葉の絵、じゃないね、緞帳かと思ったらこれはCGによる映像だった、がある。
これがなんとなく日光の華厳の滝を連想させたけど、滝の映像は、演技によって都会の映像などに様変わりした。
雑技の最初は天井から下げられた布に女性たちがぶら下がる軽技で、これはモスクワのボリショイサーカスといっしょ。
ただし、ハリウッドスターのような8頭身美女ばかりだったロシアと、中国人の雑技団ではやはり魅力が一段下がる。
いろんな演技があったけど、以前に見たときは大勢の曲芸師による皿まわしや、椅子を10個も積み上げて、その上で少女が逆立ちをするという軽技があったのに、今回はそれがなかった。
総じて、華やかさという点では、以前見たもののほうに得点がつく。
上海雑技団はべつの場所にも演技場があるらしく、内容もいくらか異なるようだ。
ボリショイサーカスでは最後にトラやライオンが登場するけど、こちらでパンダが出ることはない。
輪くぐりや空中ブランコなど、オリンピックに出たらそうとういい線行くのではないかと思えるものもある。
しかしまあ、オリンピックならそれなりの名誉や、金銭的実益も得られるだろうけど、雑技団の未来は明るくない。
国が貧しい時代なら子供を売り飛ばすという行為も珍しくなかった。
映画「覇王別姫」や「變臉(へんめん)」を観ると、売り飛ばされ、買い主のもとで獣のように仕込まれる子供がいたことがわかる。
国が豊かになり、しかも人権がやかましくなると、売り飛ばされる子供もいなくなるし、イヌやネコを躾けるような行為は認められなくなる。
そこへ持ってきて、雑技くらい機械化や人員削減、養成期間の短縮といった合理化がむずかしい仕事はないのだ。
わたしが入場料が高いとぼやいたのは間違いで、彼らを人民芸術家とたてまつるなら、そのくらい当たり前だったのである。
演技の最後で度肝を抜かれたのは、複数のオートバイが球状の鉄の檻のなかで走りまわるものだった。
こういうのは子供のころ、日本のサーカスでも見たことがあるけど、2台のオートバイから始まって、しだいに台数が増え、最終的には7台のバイクがせまい檻の中を、衝突もせずに走りまわった。
ためいきの余韻がさめやらないうちに、演技者全員が勢揃いしてカーテンコールになり、観衆の盛大な拍手で終わった。
もちろん欧米人の観衆も大喜びだ。
わたしは雑技団の未来を思って、こういう観客がいることをありがたく思うし、世界もこうでなければいけないと思う。
みなさんも上海で雑技団を観たかったらいまのうちだ。
せいぜい散財してきておくんなさい。
演技場の外に出ると、欧米人を乗せてきた大型バスが道路に数珠つなぎになっていて、渋滞が激しかったけど、わたしたちは地下鉄でもどった。
雨はまだ降り続いていた。
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