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2025年10月 3日 (金)

源氏物語

1375

うちの団地でだれか年寄りが亡くなったのか。
部屋の片付けがあったらしく、建物のまわりに家具や雑貨が積み上げてあった。
孤独死ならそのうち我が身にもという可能性はあるけど、そんなものを気にするほどヤワな人間じゃない、わたしって。

雑貨のなかに本がいくつか目についたから、検分して、おもしろそうなものを引っこ抜いてきた。
中に木村朗子著の「紫式部と男たち」という文春新書があった。
紫式部といったらアレである、「源氏物語」の原作者である。
ひとりの作者が妄想をたくましくして書いたフィクションとしては、なんでも世界最古の小説だそうだ。

わたしが「平家物語」のファンであることは、ちょっと前のこのブログに書いたけど、源氏のほうはほとんど読んだことがない。
読もうと思ったことは何度もあり、古典がダメなら谷崎潤一郎や瀬戸内寂聴の現代語訳でと思ったこともあるくせに、いちども読み通したことがない。
理由はこれが勇壮華麗な軍記物語ではなく、宮中で男が女をくどくだけの女々しい物語だかららしい。
もちろんそういうイロ恋沙汰が好きだという人もいるだろうけど、すべて女の創作だと思うと、もともと芸能界のスキャンダルにも興味のないわたしが読みたがるものじゃなかったのだ。
宮廷内の恋物語なら平家物語にもいくつか実例はあるし、若いころネクラでもてなかったわたしには、男女のむつみ事なんておよそ縁のない世界だったのである。

それでも拾ってきたのは古典そのものではなく、解説書だから、読み始めから半分くらいまではおもしろかった。
日本の言語が書き言葉とやまと言葉との2種類を使い分けていたとか、当時から女性にも名前があったとか、どうして源氏物語の原作が紫式部とわかったかという裏話を、きちんとした検証で説明されると、もともと歴史好きのわたしには興味が尽きない。

でもやっばり半分ほど読み進んだところで放り出した。
源氏物語によらずとも、この世界にはフジテレビの中居正広クンや、ラブホテルの前橋市長さんなど、イロ恋沙汰のスキャンダルがあとを絶たない。
身近のそういう事件にも興味がないわたしが、遠つ世の殿上人の話題に関心を持っても仕方がない。
もう冥土の近いわたしが、古典の源氏物語を読むことは、永遠にないだろう。

ただ、わたしはときどき思い出すことがある。
源氏物語の各帖のタイトル、桐壺、箒木、空蝉、若紫、末摘花、紅葉賀(もみじのが)、花宴(はなのえん)、葵、賢木(さかき)、花散里、須磨、明石、澪標(みおつくし)などという言葉を、自分なりの抑揚をつけて読んでいくと、それだけでどこか侘び寂びを含んだ、絢爛たる日本美の世界が浮かび上がるような気がする。
中身は知らなくても、妄想好きでその名を知られたわたしには、源氏物語が永遠の小説であることは事実なのだ。

うちの花壇では彼岸花がみじかい盛りを終えるけど、それでも今年は想像以上に花の数が多かった。
来年もまた元気に咲いてほしいね。
ええ、まだ来年まで生きるつもりなんですよ、わたし。

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