安楽死認定審査会
わたしも作家にでもなるか。
そうすれば市井のいちゃもん居士にすぎないという世間の評価も変わるかも知れない。
なにしろいまは、本の1冊でも出していれば、世間は全幅の信頼を寄せる時代だから。
それで考えたのがいかにもわたしにふさわしいブラックユーモアに満ちた小説で、その出だしは以下の通り。
「わたしはあるジャーナリストだ。
今日は上司の命令で安楽死認定審査会というところに取材に来た。
なんでもあちらから取材に来てほしいと要望があったのだそうだ。
審査会は市役所の一室にあって、尊厳死を扱うには不自然なくらい事務室然とした部屋だった。
やたらにコンピュータの並んだ部屋に通された。
対応した職員がプラスチックのケーに入った小さなICカードの束を見せていう。
これが申請者の情報を記録したカードです。
たとえばこれなんかといって、彼は1枚のカードをコンピュータに差し込んだ。
たちまち目の前のモニタに一人の若い娘の顔と経歴が表示される。
まだ17歳の女子高生じゃありませんか、こんなのでも安楽死を申請するんですかと驚いて尋ねると、相手は平然として、もちろん審査の段階ではねられましたけどねという。
失恋ぐらいで安楽死が認められていたのでは、日本の女子高生は絶滅してしまいますよとのこと。
モニターの娘がなかなか可愛かったので、こんな娘ならまだ楽しい人生を送れそうなものですけどというと、そうなんですよと相手はいう。
実はうちの職員のなかに彼女に目をつけたのがいましてね。
女子高生の審査に酌量の余地ありとかなんとかいって呼び出して、そのままホテルに連れこんでしまいました。
そりゃひどいね。審査員の特権乱用じゃありませんか。
もちろん彼はクビです。
ただし女の子のほうはホテルの味が忘れられなくなったみたいで、いまじゃ学校でも札付きの淫行少女ってことになってるらしいです。
で、今回あなたに来てもらったのは、安易に安楽死を申請することへの警鐘を鳴らしてほしいのですよ。
なるほど、そういうことだったのか。
そういえば最近は市役所に、自殺幇助じゃないかと抗議のデモもしょっちゅうあるそうだ」
と、こんな小説なんだけど、どうだろ、もっと続きを読みたいという人がいるだろうか。
残念ながらまだ決定稿ではないから、これ以上中身をバラせないけど、こうやって安楽死を申請する人々の申請理由やその後のてんまつがつぎつぎと語られていく。
英国のイヴリン・ウォーあたりに匹敵する怪作になるかも知れないし、読みたい希望者が多く、採算が取れそうなら新潮社か文芸春秋社あたりから声がかかるかも知れない。
そうなれば、わたしもいっぱしの作家のはしくれだ。
お金もどしどし儲かるかも知れないし、世間の見る目も変わるだろう。ダメかねえ。
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